閃光の遺産

三好徹『閃光の遺産』読了。まぁ、お話としては、特にどうということもないが、珍しい版で読んだ。なんと、埼玉福祉会版である。年寄りや弱視者向けに、でっかい活字で組んだ奴。おかげで上下二分冊。別に老眼が進んだから、というわけじゃなく、図書館には、これしか置いてなかったのだ。京極夏彦の本を、これで出したら、どうなるのだろう。それはともかく、活字がデカいと、すいすい読めるわぁ。なんとなく味わいは浅くなるような気もするけれど。

この作品の背景には、広島への原爆投下がある。先ごろ、広島平和記念資料館が、火傷でただれた両腕を前に突き出し、ボロボロの服でがれきの中をさまよう被爆者をイメージしたマネキン人形の撤去を決めたことが話題になった。市は、「凄惨な被爆の惨状を伝える資料については基本的にありのままで見ていただくべきという方針の下、この度(創作性の高い)被爆再現人形を撤去することとしたものであり、残虐な印象を与えることなどを危惧するものではありません。」と言っているが、必要以上に悲惨なイメージを与えるものは排除しようと思ったんだろうな、とみんなが感じている。

 私なんぞは、原爆被害の悲惨さを伝えるのに、残虐イメージはバンバン打ち出すべきだと思っているし、でなきゃ展示物としてのインパクトはなくなるし、撤去だなんて、しょーもないことはするな!と憤りすら感じる。どこから圧力がかかったんだろう?それとも「自粛」か?広島市が、そんなことしてどうするんだ。長崎市は抗議すべきじゃないのか(長崎以外に抗議する資格のあるところがない)。

 例えば、昔の刑事ドラマじゃ、シャブ中なんてものは、ものすごい描かれ方をしていたもんだ。あれを見て育ったからこそ、シャブなんぞに手を出しちゃいかん、と刷り込まれて今日に至っておる。「ダメ、ぜったい」なんて言われたって、効きやしねえんだよ。

 純真無垢な心にトラウマを植え付けること。これって、すごく大事なことだと思うのだが。