醗酵人間

戎光祥出版のミステリ珍本全集第3巻、栗田信『醗酵人間』読了。「戦後SF最大の奇書」とか「信じられぬイモなSF」とか煽ってくれたので、山田風太郎忍法帖に出てくる忍者みたいな奴が主役かと思ったら、酒を飲むと体内に悪の芽が醗酵し、殺人鬼になるという、要するにトテモ酒癖の悪い奴が主役。しかも、動機は親父の復讐なので、そんなに悪逆非道というわけでもなく、なにしろ外国ではヨーグルトマンなどと体に良さそうな名前で知られているくらいの奴だからして、そんな無茶苦茶な話ではない。まぁ、もっとインパクトのある作品なら、幻にもならず、それなりに知られていたはずだろうから、そもそも珍本全集に入るような作品に、過大な期待を抱いてはいけませんね。と言っても、そんなにつまらん話というわけでもない。私自身の好みから言うと、併せて収録された「台風圏の男」の方が、よっぽど面白かったのだが(無茶苦茶だから、ではなくて、普通に読み物として面白かった)。同じく「改造人間」は、書きようによっちゃ、もっと不思議な味わいのある作品になったと思うのだが(「59分59秒」なんて、面白かったがなぁ)。しかし、どれもこれも、妙なところで尻切れトンボな感じがするので、やっぱり幻の作品には、幻になるだけの理由があるのね、と思った次第。