【テレビ感想】相棒「ピエロ」

恒例の元日スペシャルなのであるが,相変わらずの面白さ。すっかりオバチャンになった比企理恵や,セーラームーン,クゼテッペイ隊員,マジグリーン蒔人兄ちゃんと特撮好きのツボを突いた面々をゲストに迎え(と書いても華のないことこの上ない。もっとも,物語の根幹に関わることはまったくない人たちばっかりなのだが),バスジャック事件(ちなみに,これは和製英語で,バスだろうが飛行機だろうが船だろうが,本来は「ハイジャック」と言う)を描いている。シリーズ開始からここまで,このレベルを保ってこられたことに驚嘆する。
しかし,問題点というか,首をかしげるところもなくはなく,いくらなんでも大橋のぞみに活躍させすぎじゃないかとか,ザブングルってなんやねんとか,申し訳程度に警察庁という敵役を出してきたとはいえ,杉下の意見がスムーズに通り過ぎているではないかとか,ラストに杉下が「こんなことをして,○○が喜ぶとでも思いますか」などと陳腐な台詞を吐くに至っては,『相棒』の世界観が崩れているような気がしてならない。
もっとも,この世界観という奴は曲者で,シリーズが進んでくるにつれ,変わってくるのは致し方ない。以前は,杉下の変人キャラが強調されていたこと,亀山が杉下の予想できない行動を取ること,「理」の杉下,「情」の亀山と役割がハッキリしていたことから,どっちが欠けても『相棒』にはならなかったが,今はそうではない。杉下のキャラが世間に認知され,完璧以外の何者でもなくなっている点(これは,亀山とのコンビによる,杉下の「成長物語」としての『相棒』が終わったことを意味している),神戸がはじけることのできないキャラである点(今回のスペシャルでも分かるように,かなり優秀な奴であるが,杉下の枠を超えることはない),神戸の存在意義が(スパイでなくなった現在),米沢やトリオ・ザ・捜一と大して変わらなくなっている点から,最早,バディものとしての体は成しておらず,タイトルは『杉下右京』に変えたって何の問題もない。
おまけに,亀山(及び,その妻)退場後,どんどん暗く重くなってきたドラマが,たまき降板(「花の里」シーンの消滅)で,ますます,その勢いに拍車をかけることは想像するに難くない。これは,社会派推理ドラマとしては,より完成に向かっていく流れだとは思うけれど,『相棒』としては,どうなのだろうか。これだけの人気番組だから,今後しばらくは続いていくのだろうけれど,ドラマとして描くべきことは,もうそれほど残っていないのではないかという気がしてならない。「情」を理解するようになってしまった今,杉下は今後,他の登場人物の「鏡」として機能する以外なくなるのではないだろうか。杉下の特徴である「暴走する正義」は,どのように扱われていくのだろうか。