トリック上の殺人者

懐かしいなぁ本田理沙

◆阿部幸三著。これはすごい。ここまですごいのは読んだことがない。何がすごいって,とにかくヒドイのである。推理小説としてどうこうとか,そういうレベルではないんです。キャラクターの書き分けがどうとかなんて,そんな高次元の話でもないんです。推理小説を,いや,小説を書こうって人なら,ある程度の文章修養ってことをやるもんだと思うんですけどね。「案に相違して」と言ったのを「暗に奏して」というテロップにして,変だともなんとも思わず放送した日本テレビの白痴スタッフとは訳が違うんだから。あぁ,それなのに,それなのに,この阿部某という人の文章は,およそ人様に読んでいただこうって代物じゃないですよ。よくもまぁ,こんなのを書いて,しかも「第一級の本格派推理小説づくりを目ざしている」なんて言えたもんだ,56歳にもなって。そして,これを出版した文芸社って会社は一体どうなっとるんだ。天下無双の問題作です(出版されたこと自体が)。その昔,新本格が出てきた頃にボロカスに叩いた奴らは,これを読んだらなんと言うのでしょう。
◆というわけで,あまりの酷さに頭がクラクラし,文章を書くってどういうことなんだろうとか,出版ってなんなんだろうとか悩んでしまった私は,口直しに『とり・みきの映画吹替王』を読んで,なんとか立ち直ったのだった。