十二人の抹殺者

日下三蔵という編集者、アンソロジストがいて、当代随一というか天下無敵というか、とにかくすごい人だ。ミステリ関係で「面白そうな全集(or 叢書)だな」と思ったら、必ずと言っていいほど、この人の名前が入っている。私なんぞは、ちくま文庫の怪奇探偵小説傑作選『海野十三集』で大感激したのだが、今回手に取ったのは、戎光祥出版から出ている、ミステリちんぽ全集、もとい、ミステリ珍本全集の第2巻、輪堂寺耀『十二人の抹殺者』である。ちなみに、第1巻は山田風太郎忍法相伝73』、最新刊の第3巻は栗田信『醗酵人間』(←これ読みたい!なんとなく海野十三の匂いがする!)。

で、本書であるが、とりあえず表題作だけ読み終わった(『人間掛軸』というのが併録されている)。登場人物概要に多いのに、キャラの描き分けがほとんどなく、誰が誰だかサッパリ分からん。次から次へと怒る殺人で、どれもこれもが機械的トリック、これもイマイチよぉ分からん。殺人予告が来て、登場人物がバタバタと殺されていくのに、サスペンスフルなところが全然感じられない。緊迫感もない。みんな、おとなしく殺されて、警察も探偵も、何の焦りも感じていないようにすら見える。ダルダルで、長すぎる。

というわけで、正直あんまり楽しめなかった(まぁ、こういう出来だから、長いこと「幻の怪作」だったのだろうけれど)のだが、犯人の設定と動機だけは、さすが昔の探偵小説って感じで好きだ。「出たぁ」って感じで嬉しくなりますよ。たいていの人は、ここを褒めずに、何度も起きる密室殺人ごとに異なるトリックが使われている点あたりを評価しているのだが、古き良き探偵小説臭をプンプンさせる、この大映ドラマ的犯行動機の部分こそ、お楽しみではないのか。て言うか、それを読んでほくそ笑む私は、編者解題で日下三蔵の言う「本書を手に取るほどの好き者」以上に狂ってるということか。でも、これってゲテモノ好きのための「出すことに意義がある」叢書だと思うので、こういう楽しみ方が正しいのだと、私は信じる。